マジャス

結果として当時Rousillon全体のブドウ樹75％がオーナー達によって引き抜かれてしまいます。人を雇用せずともケア出来る様にブドウ畑の面積をミニマイズしたという訳です。ちなみに1990年当時の取引価格は100ℓで40ユーロ。そこから組合の取り分は25ユーロ。人を雇って大規模収穫したとしても、100ℓ当たりの利益がたったの15ユーロ。家族を養うなど到底無理な収入です。

ブドウ農家を廃業した者も多くいましたが、組合は「心機一転」を合言葉にして、農家を継続した者達に大きなプレッシャーを掛けて来ました。それは当時世界中でデマンドを高めていた「ボルドースタイル」への転換。CarignanやMacabeuを引き抜き続け、Cabernet Sauvignon/Merlot/Cabernet Francへの植え替えを推奨したのです。80年代後半から90年代前半迄、その試みは大きな成功を齎したかの様に見えました。 しかし結果として残ったのは「安価なボルドースタイル」と「価格に見合ったクオリティ」という、原産地呼称に対する悲しいレッテルのみだったのです。

Alainの父も例に漏れずブドウ品種植替推奨派の波に飲み込まれました。今もMajasの畑にCabernet SauvignonやMerlotが植えられているのは、この頃の名残。そしてAlainが父から畑を譲り受けたのも、正にこの頃でした。丁度同時期にCarrefour【カルフール】グループから全生産ワインをバルクで購入したいとのオファーが。共同組合を通じたワイン作りの将来が全く明るくないと感じていたAlainはそのオファーを快諾、しかしながら、そこには時間の経過と共にひずみが生じ始めました。

原産地呼称の低評価故に下がり続ける取引価格、そして生産するワインだけでなく醸造方法やディテールにまで口を出すスーパーマーケット。「最早テロワールという概念は死んだものだと日々感じていた」とAlainは言います。先祖から受け継がれた財産は底を尽き、「倒産」に二文字が頭の中で鮮明になって来た矢先に「出会い」が起きたのです。 

 それこそが2001年に独立を果たしていたMatassaのTomです。Majasと同村Caudiès-de-Fenouillèdes【コディエス ド フヌイエード】出身の青年をTomがアシスタントに雇っていた為に偶然話をする機会があり、その際にオーガニックに対する想いを聞き、更にその夜Matassaのワインを飲んで「もうこれしか生きる道が無い」と確信したそうです。しかしながらAlainにとって農薬と添加物を否定する道は未知の領域。同じ想いを持つ仲間として「共生する」道に関して議論を重ねた結果、TomはMajasとパートナー契約を結びました。

畑のオーガニック転換と、無添加のワイン醸造を全て監修する事になった訳です。元々必要最低限とAlainが判断した量しか農薬の使用をしていなかった事もあり、オーガニック転換は3年経過した時点で畑を見違える様な姿にしたと言います。沢山の昆虫がオーバークロップで跳ねる様になり、土中のミミズは昔の倍以上に増えたそうです。スーパーマーケットと共に歩んでいた頃は「ロゼワインがキャンディ味になる」酵母や「Chardonnayがレモンゼストの風味を持つ」酵母を添加していましたが、いつしか明確に「土地の味」を意識出来る様になった事はAlainにとって最も大きな変化だったとも言っています。

現在AlainとAgnesは通年大半の時間を畑の中で過ごしています。Tomとの関係は相変らずで、栽培に関するアドバイスを受けながら、ワイン作りを全てTomに一任しています。言うなればDomaine de Majas【ドメーヌ ド マジャス】は兄弟の様なもの。車で8時間以上も掛かるParisよりも3時間弱の距離にあるBarcelonaで愛されているのはMatassa同様にCatalonia【カタルーニャ】であればこそ。街で愛される多くのワインバーで定番のボトルとして親しまれています。