ピエール・ゴワゼ
大変革の真っ只中にあるミュスカデ。この地のナチュールの先達であるランドロンやド・ベル・ヴューに続く、新世代の若いドメーヌが次々と誕生しています。2020年に故郷のナントに戻り、新しくドメーヌを興したピエール・ゴワゼもその一人です。ナント生まれのピエールは、学業を修めた後、サンテティエンヌでカメラマン兼ビデオディレクターとして10年近く働いていましたが、40 歳を目前に、妻と二人の子供と共に生まれ故郷であるナントに移住。ヴィニュロンに転身し、ナチュラルワイン造りを始めたのです。
ピエールの畑の8割を占めるのは、マッサルセレクションで1950 年代に植樹された60年を超えるヴィエイユ・ヴィーニュのムロン・ド・ブルゴーニュ。片麻岩(へんまがん)と石英、花崗岩の2 つの区画から、テロワールを表現するリューディのミュスカデを手掛けています。ドメーヌのワインは2021 年は初ヴィンテージですが、既に三ツ星のレジス・エ・ジャック・マルコンを始め、ナントやパリの若い星付きのレストランでサービスされて好評を博しています。
ピエールは、サンテティエンヌにあるナチュラルワインのバー「Chez Lulu シェ・ルル」で多くのナチュラルワインを味わううちに、ナチュラルワインの虜に。当初はブドウの収穫の手伝いに行くだけでしたが、次第にワイン造りにも興味を持ち始め、北ローヌのピエール・ジャン・ヴィラとレ・デプロード・ド・タルタラで働き始めます。並行してブドウ栽培と醸造のバカロレアの免状を取得しました。
その直後、妻のマリーが「さあ、本格的にワイン造りを始めましょうよ!」と言ったのです。こうして、ピエールは40 歳を目前に、妻と二人の子供と共に生まれ故郷であるナントに移住。ヴィニュロンに転身し、ナチュラルワイン造りを始めたのです。
栽培はビオロジックとビオディナミで、馬による耕作も行っています。畝の間にはカバークロップを生やしているため、ドメーヌの畑には、昆虫やトカゲ、野ウサギなどが沢山います。剪定方法はギュイヨ・プーサールで、芽かきの段階で厳格に摘み取りを行って収量を調整します。ドメーヌの畑のブドウは成育力が低く、自然に低収量になるため、グリーンハーベストや除葉は行いません。温暖化の影響で摘芯も行いません。
ピエールは、ブドウ畑で自然が対立しないように、草を生やし、土に生命を吹き込むように、自然そのものを表現しようと努めています。醸造においても、ピエールは全てを自分自身の手で、アーティザナル(職人的)な手作業で行うことにこだわりを持っています。このため収穫は手摘み。ブドウが潰れないように小さなケースで醸造所に運び、古い木製の手動式の垂直圧搾機で圧搾します。
発酵は野生酵母で行われ、清澄や濾過をせずに熟成され、マロ発酵も自然に行われます。ピエールは真っ直ぐで逸脱しないワインを造ろうと努めているため、瓶詰め前に必要最小限の亜硫酸塩を添加します。瓶詰めもラベル貼り、ワックスがけも全て手作業です。
ピエールはローヌで働いていた経験から、ローヌの白ワインが好きで、ワイン造りにおいても、酸よりも苦みを重視しています。このため、ドメーヌのワインは他のミュスカデのドメーヌのワインと比べて、熟していて、まろやかで、ボリュームがあるのが特徴です(もちろんヴィンテージによって緊張感があるキュヴェも存在します)。
コンプレモンテールのマリオン・ペシューとマニュエル・ランドロン、ドメーヌ・ランドロンのジョー(父)とエレーヌ(娘)達と定期的に交流して、ブドウ栽培やワイン造りについて、意見交換をしています。また、ペトゥアン・エ・アンラジェなど、この数年にミュスカデで設立された、新しいドメーヌの交流グループがあり、それにも参加して知見を深めています。